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童話集「木苺 第3号」より “小さな魔法の手” ともながあ希・作
ともなが あ希
「あ、父さんだ」
 会社帰りの父さんの姿を見つけたのは、母さんに頼まれて、お使いに出た帰り
のことだった。
 父さんたら、昔兵隊さんだったから、歩く姿だって背筋をピンとのばしている
し、足の運びも規則正しくカッカッカッと全くすきが無いのよね。
 私は父さんを追いかけながら、何だかこそばゆいようにおかしくて、笑いがこ
み上げてきちゃった。父さん、今日は帰りがおそいけど、何かあったのかなあ。
「ただいま!」
 少し前に父さんがしめた玄関の戸を、私は勢いよく開けた。すると、さっきま
であんなにかっこ良く歩いていた父さんが、玄関の上がりがまちに大の字に寝っ
ころがって、足を投げ出している。
 私は何が起きたのかわからなくて、そこに立ちつくしていたんだけど、きっと
父さんも大きな声で「ただいま!」って玄関に入ったんだね、奥から母さんがエ
プロンで手をふきながらパタパタ出て来たもの。
 母さんは、ちらっと私を見て、
「あ、かほ、お使いありがとう」
と言ったけど、すぐ父さんのそばにひざをつき、
「まあまあ、父さんたら、こんなになるまで飲んできて。起きて下さいよ」
と靴をぬがせたり、ネクタイをゆるめたりし始めた。
「これ片づけてね」
 母さんは私に、父さんの帽子とカバンを渡すと、奥に向かって大きな声でみん
なを呼んだ。
 みんなと言うのは、私の兄弟なの。高校一年のもも姉ちゃん、中学一年のしゅ
ん兄ちゃん、それに二年生の妹めぐみと年長さんの弟のひろし。五年生になった
私を入れるとわが家の兄弟は、全部で五人。
 そう言えば私もこうして呼ばれると、いつもみんなといっしょに、どうしたの