さて、ある夜のことです。
ママはいつものように、出張中のパパに「おやすみ」を言って眠りに
つきました。
 少しすると、ミホホの友だちゴキブリのリキが、ママのふとんの上を
右から左へカサコソ通り過ぎたではありませんか。
 一度ならママも気が付かなかったのかもしれません。
 ところがリキは、またふとんの上を左から右へカサコソ横切ったのです。
 ゴキブリが大の苦手なママは、二度目のカサコソで気がついてしまい
ました。
 気がつきはしたけれど、すっかり目覚めるまでにはいかず、半分夢の
中にいて、
「私たちがすっかり眠ってしまうまで、姿をあらわさないって約束でし
ょう・・・むにゃむにゃ」
と、以前交わした契約のことをもごもご言い、またすぐ眠りに落ちてい
きました。
ママの声で、リキはピタリと足を止め、ママの寝息が規則正しくなる
のを見届けてから、そっとその場を立ち去りました。
 ところが、今夜のリキは長老のおたっしをすっかり忘れてしまい、ま
たしても右から左へふとんをよじ登り、あろうことかママの顔の上をペ
タペタ歩き出したのです。
 ママは、
「ギャーァ!」
とひと声発するや、リキを払い落とし、目をかっ! と見ひらいて、近
くにあった新聞紙をキリキリ丸めはじめました。
 リキがちらっとママを見た瞬間です。
「バシッ!」
 ママの新聞刀が、リキの背中を直撃しました。
「このゴキブリめ、エイ! 私の顔の上を歩くなんて百年早いっていう
のよ、エイッ! ぜったいに許さないわ、エイッ!」
 エイッ、エイッと新聞刀は振り下ろされました。

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