「木の器」 と スライドレクチャー
2003.4.5 NPO瑞浪芸術館にて
講師:三谷龍二氏

冷たい雨に降られたこの日は、瑞浪の桜が私たちの地域よりも一週間遅れの、蕾を膨らませた状態でした。
三谷龍二さんの「木の器」展は、『ギャルリ百草』でも開催されたのですが、私はあいにく仕事で行くことが出来なかったので、 NPO瑞浪芸術館から、今回の「木の器」とスライドレクチャーの案内をいただき、とても楽しみに友人と参加しました。 途中、多治見に寄り道した私たちは、何とか定刻間際に瑞浪芸術館に着き、さっそくレクチャーの始りです。

「20年の工芸活動の中で、作品が器に変っていく経過を見て欲しい」 「35mmのフィルムならスライドにできるけど、そうではないので・・・」とパソコンを通して、画像がスクリーンに映し出されました。写真は三谷さんご自身が撮られたものです。

現在の創作活動は、絵や彫刻などが1割で、器が9割。 松本駅から10分くらいのところに、住いと工房を構え、木工と漆の工房、中村好文氏設計の“8坪の家”を行き来している。 松本は雪が深いわけではないけれど、春と夏を合せたくらい冬があるそうです。
スクリーンに映し出される工房周辺は、とても緑が多く、自然環境に恵まれているようです。 敷地内に設けられた葡萄棚の下は、とっておきの場所。松本の夏は空気が乾燥しているので、葡萄棚の下はとても心地いい場所になり、その下でよく食事をされるとのこと。
木の器に盛りつけられた料理が、なんとも美味しそう!器も背景もご馳走の食卓風景でした。

器つくり以前 1981~1990

「6帖一間でもできるもの・・・ということで始めた仕事は、木のアクセサリーが出発で、オルゴールや独楽、バターケースなどの作品等があり、 掛時計や照明スタンド、離乳食用のボウルなど、生活していく中で自分の欲しいものを作ろうと思った」
「子供が小さかった頃の、離乳食のときに使うために作った木のスプーンやフォークは、持ったときの重さ、角度で使い勝手が違ってくるので、 奥行のある仕事。生活に対するまなざしをもって、“用”を考えた作品作りを心がけている」

以前、安曇野に旅をしたとき、仲間が『安曇野絵本館』で、三谷さんのティスプーンをどっさり買いました。つられて私も「裏の膨らみがいいなぁ」と、その残りの2本を買いましたが、 ぷっくりした“膨らみ”は、そうした拘りの“用の美”でもあったのですね。

「毎年5月に“あがたの森”で開催される、『松本クラフトフェア』の企画を、友人たちとやってきた。そのDMのハガキも製作。 周りは家具を造る人が多く、立体を造るきっかけにもなった」
「友人の工房が火事になり、残ったノミを作品にした。古いもの、意味が無くなったものに、少し手を入れて作品にした」
「旧制松本高等学校の校舎が好き。校舎や小屋、切妻の家、佇まいのある家が好き。また、立体絵とアルファベットに魅力を感じ、古楽器をテーマに造ってポストカードにする。 何ヶ月かに一回、絵を描いて文章も書いている」

三谷さんは「木の器」だけでなく、グラフィックデザインや、本の装丁も手掛けていらっしゃるそうで、 ベルンハルト・シュリンクの『朗読者』『逃げていく愛』、山田太一著『逃げていく街』、吉田直樹著『ツインズ』など、 抑えた色使いとシンプルなラインの作風に、ノスタルジックな世界を感じました。そうした作品は、ポストカードや画集、絵本として「木の器」と一緒に並べられていました。

木の器ができるまで

普段は北海道の木を使っているそうで、富良野の演習林で直径10mもある栓の伐採に立会った様子を見せていただきました。
富良野の演習林は木を切ることで森を育てているところで、木を冬の間に伐採するのは、雪の上を滑らせて降ろせることと、木は冬眠状態で乾燥しやすいためだそうです。
伐採した木は、すぐに枝打ちされ丸太状態で運ばれたあと(ブルドーザで引っぱっていく)、幹の状態をチェックしながら定尺を決めカットする。これには熟練を要するとのこと。 また、割れを防ぐのも大切な作業で、S管で止めるそうです。
製材された板は、桟積みにして乾燥させる。小口の方から割れるので、下に短い木、上に長い木を全体に重石がかかるようにして割れを防ぎ、1~2年かけて乾燥させる。
さて、いよいよ木の器づくりです。乾燥した板を木取りし、荒彫りしたあと、彫刻刀を使って仕上げる、といった流れで、「黒い器」はおはぐろで黒くし、 木漆で染料を止めるとのこと。デザインしてから出来上るまでに1年くらいかかることもあるそうです。

懇親会にて

スライドレクチャーの後、三谷龍二さんを囲んでの懇親会がありました。 私の隣にいらした鈴木奈津子さんは、『ギャルリ百草』の庭を手掛けたのがきっかけで、ヨーガンレールの企画展の時に建築家・中村好文さんと出会い、芸術館の庭も依頼されたのだそうです。 豊橋からは『濫觴』さんも参加され、NPO瑞浪芸術館の理事長であり、陶芸家・近藤精宏さんの中立ちで、三谷さんや参加者との間に、交流の輪が広がっていきました。
三谷さんに、「松本にも木はあるかと思いますが、北海道の木を使うのはどうしてですか?」と伺ったところ、たとえば桜など、北海道のものの方が木肌の色がいいのだそうです。 会場には木地仕上げの器もたくさん展示されており、持ち味を生かした木の器は、手触りを感じながら見ていると、心が和みます。中には、長い間土に埋もれていたという神代楡で作ったお敷もあり、グレーの濃淡と木目の美しさに感動!でした。
三谷さんの作品や個展のスケジュールなどは、HPでもご覧になれますので、ぜひどうぞ。また、農産漁村文化協会の季刊誌『住む。』にも、“僕の生活散歩”(文と絵と写真)を連載されています。

とても充実したセミナーでしたのに、文字にすると「これだけ?」と自分でも呆れ返っています。走り書きのメモを頼りに記憶を辿るのですが、念願の「黒い鉢」を手に入れた嬉しさばかりが先立ち・・・その代りと言っては何ですが、 『しゃれがき考現学』のほうでも登場です。ご覧あれ!