「樋口可南子のきものまわり」
清野恵里子著  集英社 ¥2,700+税

娘の成人式となれば訪問着をあつらえ、嫁ぐ時には親が多少なりとも揃える。これは今の時代でも同じかもしれませんが、 私の場合は母親の経済的な事情と、私自身の関心が薄かったこともあって、着物には全く縁の無い時代を過してきました。
それでも、いつの頃か着物に想いを寄せるようになり、「こんなふうに着れたらいいな」と雑誌を切り取ってスクラップしておいた中に、 女性誌“メイプル”に連載された『樋口可南子のきものまわり』がありました。 ただメイプルの購読は続かなかったので、単行本として出版されたと知るや、「待ってました!」とばかりに本を取り寄せました。

『樋口可南子のきものまわり』は、一話ごとにいろんなシチュエイションで構成され、可南子さんと交友のある人との逢瀬、お茶会を催したり、旅だったり、友禅や紬の工房や染めの吉岡幸雄さんの工房を訪ねたりで、 それに合わせての着物選びに、宮古上布、八重山上布に芭蕉布の帯、黒に近い無地の黄八丈、骨董市で出会った無地の結城紬、可南子さんの第2きものブームをつくったという伊兵衛織りなど、 帯や小物とのコーディネートがとっても素敵で、あらためて樋口可南子さんのセンスに惚れ惚れ。きものへの熱い思いが伝わってきます。

可南子さんの趣味は広く、花岡隆さんに陶芸を学び、お仕覆作りに、京都の家庭料理「おばんざい」作りなど、まったりした暮しぶりが見え、楽しさも伝わってきます。
また、この本の著者で、可南子さんのご友人でもある清野恵里子さんの文章は、可南子さんの“きものまわり”を通してのいろんな出会いや、伝統技術、歴史文化などの奥深い世界を、 美しく温かく、わかりやすい言葉で綴られていて、知らず知らず“きもの文化”に触れられ、心豊かにさせてくれます。

可南子さんと糸井重里さんご夫妻の撮影翌日、糸井さんから清野さんに宛てたメールを紹介。

洋服だったら着れば着るほど価値は減っていくし、時がたてばたつほどに老化していく・・・(中略)
着物は時間を味方につけて育っていく。老化ではなく成熟して、価値を加えていく・・・


う〜ん、さすが糸井さん! きものが持つ魅力をうまく言い現しています。そして、これはきものに限らず日本文化といわれるものや古い建築にも、同じことが言えると思いました。

そうそう、私は本の化粧カバーを取って確かめ見る癖があり、この本もカバーを外して「あっ!」と思いました。 メイプルを切り取った中に、“鳥の子色の結城紬”というのがありました。(この本には入っていません) 装丁の質感や色が、その結城紬に似ていると思ったのです。
“鳥の子色の結城紬”は私の一番お気に入りで、着付教室に通い、着物の世界に一歩足を踏み入れたばかりですが、いつか“鳥の子色の結城紬”を着てみたいと目標にしています。

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