本名は“ミカン”
 

一昨年の冬は家族だけでなく、猫までがインフルエンザにかかってしまいました。ぐったりしたチビを、近くの動物病院に連れて行ったら、看護婦さんに「ミカンちゃ~ん」と呼ばれ、「あー、そういう名前を付けたのだったわ」と、拾ってきた日のことを 思い出しました。

そのまた一年前、そぼ降る雨の朝のことです。目も鼻もぐしょぐしょの、痩せこけた子猫(2ヶ月位)に、ばったり出くわしました。あまりの汚さに一瞬躊躇しましたが、とても放ってはおけなくて、子猫を抱きかかえ、そのまま動物病院へ連れて行きました。

「この子のお名前は?」と聞かれ、とっさに
「ミカン!」

9月の初めだったからミカンの季節でもなかったのに、金茶の毛色がそう言わせたのでしょう。なのに家に帰るや『チビ』と、だれもが呼び、ミカンと 名付けたことなど、すっかり忘れていたのでした。

目も鼻もきれいになったチビは、円らな瞳のハンサムボーイです。「いつになったら、帰してくるの(拾ってきたところへ)?」と言う冷たい息子の声をよそに、愛くるしい仕草と人懐っこさで、しっかり自分の居場所を確立。 そして、ずい分大きくなった今、愛くるしさが思慮深さ?に変わり、私たち家族に絶えず話し掛けてくる、相変わらず“チビ”と呼ばれつづけている猫です。