大林記念館 ギャラリー“結”-2

コーディネータークラブ時代の仲間であり、着物を通じての仲間でもある“チギラオフィス”主宰の千木良万里さんから、 古い建物を曳家で再生したギャラリーの内覧会に、お誘いいただきました。
今回のギャラリー建設には、「木彫や」のご友人を介して携るようになったそうですが、 数年前、保存運動も空しく解体されることになった旧大林製糸倉庫を、彼女の提案でスケッチ会を実現したこともあり、 ご親族の住いとして使われていた大林邸の仕事に、縁(えにし)を感じたそうです。

当初、書道家でもある依頼主さんからは「築70年余りの古い建物を取り壊して、その跡地へ近代的なギャラリーを」との要望だったそうですが、 構造のしっかりした古い建物を壊すのではなく、その持ち味を生かしつつ、和とモダンの融合したギャラリーをと提案されたとのこと。
昨年完成した着付教室「和空 Beni」を手掛けたことや、 ずっと遡って、古民家再生では第一人者でもある楢村徹氏(※注1)の設計監修による友人宅の民家再生で、完成までの記録を取るために毎週豊橋から静岡県の磐田市まで通った経験が、 今回の仕事をするうえでのベースになり、古きものに命を吹込み生かすことに迷いなく取り組めたそうです。

(※注1) 楢村設計室  http://www2.kct.ne.jp/~nrmr/
長年古民家再生を手がけられ、古民家の価値を訴え続け、その再生の意義を周知させてきた業績に対し、 日本建築学会から特別賞としての「業績賞」を贈られています。


南側に曳家で移動し、元の場所に管理事務所を建てるという設計プランで、南側の駐車場との高低差は擁壁を立て、その擁壁に沿って地盤補強のパイルを打ち込んで基礎を造ったとのこと。
柱と小屋組だけを残した(束石に束を立てた昔の作りだったので、土台は腐朽が進んでいてすべて取り除いたとのこと)だけの、珍しい曳家の作業を、 ぜひとも見ておかなくてはと心していたのが、移動距離が近かったこともあって、駆けつける間もなく終っていたそうで、 設計者はじめ、ご親族や関係者共に見た者はなく、とても残念だったと仰っていました。
小屋組の太い梁に比べ、一見ひ弱そうに見える柱に高さを持たせるための材に御影石を使うことで、バランスのよい存在感を感じさせていました。

エントランスから階段への動線も、プランの上で検討を重ねたそうで、開放的な空間を生かしつつ、回廊的な流れを考慮されています。 内装仕上げに、天井は施工性の良いクロスを、壁は調湿性などに優れた珪藻土を用いて、作品を生かすべく背景を創りあげています。 また、黒い梁や柱と白い壁の中で、特注の階段手摺の青銅色がアクセントになっていました。



古いものを生かすのは建物に限らず、納戸に残っていた椅子やベンチは、張り地を替えてリニューアル。2階の通路に置かれた棚も、古いものを再利用です。 また、匠の技が光る建具のほとんどは管理事務所の方で再利用されていますが、ギャラリーの化粧室の建具は、 古い床材を鏡板に用い、四方框を新材で回したもので、 建具に施された透かし彫りのサインは、ご友人の「木彫や」近藤直登氏(※注2)の手によるものです。
化粧室は、白いモザイクタイルと、藍染めを思わせる洗面ボウルとの色使いで、清潔感を漂わせつつ、ギャラリーの品格を現しているように感じました。

(※注2) 近藤木彫店 http://www.tees.ne.jp/~kibori/naoto/index.htm