「日本有機農業研究会全国大会」(2007.3.10) 

基調講演 「どうする日本の食と農・・・生命科学の進歩と農業」 P2


農作物で医薬品・工業品を作る

アメリカのGM企業は、今第一世代の遺伝子組換えから次世代の遺伝子組換えへと移行しようとしている。
ワクチンや制癌剤をトマトやジャガイモで作ったり、インシュリンや血液凝固剤、避妊薬やエイズ治療などの医薬品をトウモロコシや稲で作る、といった第二世代遺伝子組換え。
これは、「バイオファーミング (Biopharming)」と呼ばれる。

参考URL:http://www.infoshop-japan.com/study/fs26147_farming_market.html

工場のタンクや実験動物で作られている医薬品やワクチンを、野外の農作物で作れば、 大量生産が容易になり、大幅な越すと削減が可能になるというのが彼等の主張。
医薬品を作物で作るというのは、これまでの農業を根本から変えるものである。

作物で作った医薬品を純粋の分離精製して、本来の医薬品として利用する形と、作物を食べながら医薬品を摂取する。
日本の農林省が推進している「花粉症緩和米」などは、後者。

人間がアレルゲンとして認識する場所・・・7つの場所のDNAを取り出して繋げたもの。
マウスと人間では、アレルゲンの認識が違う。
開発者の高岩教授は、アメリカでは違うと発表しているのに、政治的に決められてしまう。
ラットで実験済みというが、人間で実験しないと分からない。
今年、徳島で大規模に作られるというが、分別流通が可能か?
果たして国民は食べるだろうか?

野外で生産が行われようになれば、通常の作物との交配により雑種形成は避けられない。
医薬品は患者にとって必要だが、必要ない人にとっては毒物である。

GM農業と非GM農業の共存をという主張もあるが、共存は不可能である。
本来生物が自己増殖する生き物であり、人間がそれを完全に管理し、隔離することは出来ない。

クモの糸を作るジャガイモなど、工業原料生産のための、第三世代遺伝子組換え作物の研究も進んでいる。


GM動物とクローン動物

遺伝子組換えは、動物の世界にも及び始めている。
人間の成長ホルモン遺伝子を組み込んだ鱒や鯰(なまず)が開発済み。(アメリカ)
動物は自力で移動し、既存の同種動物と交配する危険が植物に比べて高く成長速度が速いために
トロイの木馬にちなんで、「トロイの遺伝子を持つ魚」といわれている。

アメリカでは魚油を作る豚も開発されている。
ホウレンソウの油を作る豚が近畿大学で開発され飼育されている。
これを食糧として受け入れるかどうかは、我々の判断にかかっている。

クローン牛やクローン羊、豚はすでに商業生産目前。
問題なのは、体細胞クローンの利用。
豚や牛で出来ることは、原理的には人間でも出来る。
将来、クローン人間は、遺伝子組換えと結合して、現実のものとなるかもしれない。


グローバリーゼーションと農業の寡占化

アグリビジネスによる大規模農業を加速化し、10年の短期間で世界の農業に大きな影響を与え、
省力化と補助金による誘導などで、国際競争を加速した。
1996年にGM作物の商業栽培が始まって以来、世界一場における大豆やトウモロコシの価格は
下落し、国際競争でアメリカたカナダなど大規模栽培が可能な企業農業による寡占化が進んだ。
現在、世界の種子販売額の60%はアメリカ数社の巨大GM種苗会社のものとなり、
遺伝子組換え農業は市場化を通じて、世界支配の手段としている。
それを可能にしているのは、種子の特許(モンサント社)である。

本来自然がはぐくみ進化させてきた生命の根幹である遺伝子が特許の対象となり、
マネーゲームの手段と化している。進化に対する冒涜である。
(モンサント社の特許については、天笠啓祐著「GM汚染」に詳しい)


農業と文化の多様化を目指して

人類は環境に適した農業を営み、文化を培ってきた。
農薬や化学肥料を基準にした近代農業は、環境を破壊し、多様な農業形態を均一化することで、
農業生産物を商品化とし、市場経済に投げ込んだ。
安全性と環境を犠牲にし続けることで維持されている。

地球の裏側で作られた農作物を食べる消費生活自身も問わなければならない。
資源の浪費と廃棄物の蓄積は遠からず生命の存在を危くし、世界の終わりをもたらす。

人類が今後も地球上で生きるためには、持続な農業生産とエネルギーの確保が必須。
自然と環境の多様化を維持し、発展させる農業こそが、破壊に向かう刹那的な均一化農業に代わる方法である。
近代農業は、作物の土から上の部分しか見てないが、植物は根と一体化して初めて生きた生命体である。 土の中で、植物の根と土壌微生物は一体となって、物質をやり取りし、根圏を形成している。