Interior Watching
「流木が息づく家」
(2003.5)

昨年の夏、「Hiroちゃんのとこで家を建てることになったから、よろしくね」と、友人のNaちゃんから電話がありました。
私の勤務先の不動産部へ、中古のチラシの件で来社し、資料を準備してもらってる間に気に入った土地が見つかり、即決!したのだそうです。 長いこと物件探しをしていたから、決めるとなると早い早い。
条件付の土地でしたから自社の施工になるので、私が設計プランをさせてもらうことになり、さっそく“住いへの要望”と生活パターンのチェックリストを作って訪問しました。

 

いろんな所へ一緒に遊びに行くわりには、Naちゃんちへ行くのは「小さな雛人形展」以来のことで、 知ってるつもりの暮しぶりを、プランナーの目で観させてもらいました。
「小林ゆうさんの家が好き」と、“チルチンびと”から切り取った写真を出しました。ゆうさんが海辺に建てた家です。
風化した板や流木が、Naちゃんにはたまらない魅力で、「したくない要望」は、“外壁にサイディングを使わない、システムキッチンは要らない、ビニールクロスも使いたくない”でした。
「類は友を呼ぶ」とでも申しましょうか、家造りに関りながらも、常日頃感じていることと同じなので、チェックシートに要望や生活行動などを書きこみながら、妙に浮き浮きした私でした。

後日、2階建約28坪の3プランと自社のプラン集を持参して打ち合わせましたが、いまひとつ。ならばと出したプランは、実は私も以前「家を建てよう!」と思ったことがあり、その時のプラン(右図)のレイアウトを変えたもので、 廊下や階段室が無く、その分LDKを広くとり、勝手口からのサービスヤードとポーチを兼ねたデッキから玄関に入るプランでした。私もそうですが、集合住宅暮しが長いと平面移動の便利さ、暮しやすさがしっかり身についています。

「このプランがいい」と決って、後はトントン拍子。外壁は腰下を杉板下見張りにしたかったのですが、用途地域の関係で断念して全面ガルバリュウム鋼板、床下に炭(粉末状)を敷き、1階の床は無垢の杉板で、幅200mm・厚さ55mmのものを使い、窓枠や幅木等も杉材を使用。 1階の建具はタモ突板で造ったものにオイルフィニッシュを擦り込みました。
室内の壁は珪藻土をDIY。数年前にOZONの「自分で塗ってみよう珪藻土!」というセミナーに参加した私は、一度やってみたいと思っていましたので、仲間を募って塗りました。

ゆくゆくはカフェにしたいと夢見た share-gaki の仮想家

Naちゃんち


1階 は平面図を見ていただいての通り、サニタリー以外はワンルームです。

廊下や階段室を設けなかったことと、和室の建具を3枚引き込みにしたことで、開放的で暮しやすい住いにと考慮しました。
玄関も正面の腰窓、出入口ともにガラス格子の引き違いにして、明り取りと部屋との一体感を出しています。
杉板の床と珪藻土の壁を「気持がいい」と感じるのは人だけでなく、流木やグリーンも心地よさそうです。

厚さ55mm の杉板は、どんな小さな木端でも廃材にはせずに、大きめのは二枚並べて玄関の式台に、 丸ごと4mの一枚ものは階段の手すりに、小さ目のものは花台等に使うようストックしてあります。


ドアを開けるとギャラリーのような・・・

台所 に「システムキッチンはいらない」は、全く同じ考えでしたので、タモ集成材・幅2550mm×奥行950mm×厚み40mmのカウンターにシンクとガスコンロを落として、下はオープンにしました。
対面キッチンだから雑然としたところが居間から見えることもなく、シンク下にゴミ箱を置いたり、大きなお鍋も取りだしやすかったりで、扉の無い方がはるかに使いやすいのではと思います。
ゴキブリだって、こんなにオープンだと落ちつかなくて定住しないのでは・・・たぶん。
カウンターには保護のためのオイルフィニッシュを擦り込み、定期的に手入れをしていくようにもしていますが、将来シンク周りの木部が腐ることもあるので、取替えを考慮してカウンターを壁には差込まず、腰壁とガスコンロ収納の箱とで荷重をもたせています。
食堂側はカウンターの奥行を利用して、コレクションのカップを並べる棚を造り付けました。また、腰窓に付けた棚のグリーンたちがギャラリーのような雰囲気を創りだしています。



和室 に置いた古材の飾り棚は、足助の『蔵の中ギャラリー』で見つけたそうで、浮き出た板目が“経年変化の美”を漂わせ、その存在感たるや私たちのような類を惹きつけてやまみません。


名古屋の骨董屋で出逢ったという水屋は、古材で造られたもので、ガラスもアンティークです。建具の色と同じだったことに偶然とはいえ我が事のように嬉しくなりました。


仲間で壁塗りの工事中、来る人来る人に「いいねぇ」と誉められたLDKの珪藻土壁は、Naちゃんとこの長女 Naoちゃんが塗ったもので、ランダムな文様が温もりのある味になっています。


洗面・トイレ は、一部コンパネ下地のところをアク止めの下塗りをしてから、壁・天井とも珪藻土で仕上げました。
今回使用した珪藻土の色は、下地のプラスターボードと同じような色だったので、すぐには分らないのですが、乾き始めると薄塗りだったところから下地のプラスターが見えてきました。
練ってある珪藻土のいいところは、何日か経って補修しても、周りとの色が変らないことで、これは素人左官ゆえにとても助かりました。
トイレに珪藻土を使うと、吸収した臭いを吐き出すのではという話を聞きましたが、メーカーに確認しましたら、臭いを分解するから大丈夫との太鼓判をいただきました。
事実、ここのトイレは、ほんとに気持がいいんですよ。珪藻土のDIYを試されたい方は、トイレから始めることをお奨めです。

収納 は、ただ沢山あればよいというものでなく、“使う所に必要なスペースを”が基本です。
台所に設けた物入は、掃除機やストック品などが出し入れし易いように棚を付け、片手で扉が開くよう折戸にしました。
把手は、以前“Nice Shop!”でも紹介した岡崎の in formで購入しておいたアイアンを、物入は横に使い、玄関収納の両開きは縦使い。


階段 は、ささら桁から踏板を少し出したところへ小さなインテリアを飾って、“視覚的な手摺”にしたものです。
階段にもキッチンカウンターと建具と同様、汚れ防止のためにオイルフィニッシュを擦り込みました。
壁側の手摺は、一枚だけ余った床板を加工して取り付けてもらいましたが、これがことのほか存在感があっていいのです。
シースルー階段がまるで大きな床の間空間のようでもあります。


2F
Nao ちゃんの部屋です。パッチワークの布とタペストリーをカーテンにしてしまうあたり、う~ん、やるわねぇ!
バルコニーへの窓台が少しあがっている所を、出窓台のようにグリーンを並べたインテリアも素敵!こういうのが自分流インテリアなのでしょうね。


あとがき インテリアのプランであっても、“図面の中で暮してみる”が信条の私ですが、今回は引渡しても尚この家で暮してみたい・・・と思ってしまいます。
自分流のスタイルを持ったNaちゃんは、引越して間もないのに、もう何年もそこに住んでたかのような暮しぶりで、ご家族や訪問者の感想を聞かせてもらうたびに嬉しくなり、設計したものにとっては感無量です。
家造りに参加させてもらったNaちゃんに感謝!
これからも、和室の飾り棚のように、杉の床板や家そのものが美しく風化していく様を見続けていきたいと思っています。